ほどけないリボン
昼間の私は、きっと誰が見ても「無難で真面目な女の子」だ。
オフィスのデスクではいつも背筋を伸ばし、髪をきっちり結んで、声をかけられれば一歩引いて微笑む。
だけど、彼の前でこの部屋のドアを閉めた瞬間、私を縛っていた透明なリボンはするりと解けてしまう。
「お疲れさま。今日も大変だった?」
私が淹れたハーブティーの湯気が、二人の間に微かなカーテンを作る。
ソファに深く腰掛けた彼は、ネクタイを緩めながら、少し驚いたような目を私に向けた。
昼間の私なら、その視線だけで俯いてしまうはずだった。
でも今の私は、彼の喉仏が小さく上下するのを、ただじっと見つめている。
「……なんか、いつもと雰囲気違うね」
彼の声が低く響く。
私は答えず、ただ静かに彼の膝の近くへと歩み寄った。
熱を帯びる輪郭
部屋の照明を落とすと、世界の輪郭が曖昧になる。
昼間の清楚な仮面を脱ぎ捨てた私は、彼を喜ばせたいという純粋な衝動だけで満たされていた。
驚く彼の足元に、私はゆっくりと膝をつく。
見上げる私の瞳には、もう躊躇なんてひとかけらもない。
衣服が擦れるわずかな音が、静まり返った部屋の空気をピリリと震わせる。
「ねえ、驚いた?」
いたずらっぽく微笑むと、私の熱い吐息が彼の膝に触れた。
彼は息を呑み、言葉を失ったように私を見下ろしている。
その瞳に映る自分が、狂おしいほどに艶っぽく見えた。
指先が彼の肌の熱を捉え、じわじわと私の体温と同化していく。
日常のルールがすべて消え去ったこの空間で、私の五感は彼のためだけに研ぎ澄まされていった。甘やかな降伏
この部屋という閉ざされた箱の中で、主導権は完全に私へと移っていた。
彼が小さく漏らす吐息の熱、指先が微かに震える瞬間、そのすべてが私へのご奉仕の報酬だ。
昼間の私を知っている彼だからこそ、この圧倒的なギャップに理性が崩壊していくのが手に取るようにわかる。
私のひたむきな視線と、躊躇のない指先が、彼の心をどこまでも追い詰めていく。
「……そんな顔、ずるいよ」
耐えかねたような彼の低い呟きが、暗闇に溶けた。
これ以上進めば、もう明日からの「頼れる先輩と真面目な後輩」には戻れない。
そんな危うい境界線の上で、私たちは互いの存在に強烈に惹きつけられていた。
彼の大きな手が私の髪に触れ、引き寄せようとする。
その刹那、私たちは日常を完全に捨て去り、深い夜の深淵へと真っ逆さまに落ちていった。


