静寂に灯る影
「これ、今日の夜中までに修正しておいてって言ったよね?」
静まり返ったオフィスに、上司の冷たい声が響く。昼間はあんなに従順に「はい、分かりました」と頭を下げていたけれど、もう二十二時を回っている。ブラインドの隙間から差し込む街灯の光が、デスクの上の散らかった書類を白く照らしていた。彼は私のすぐ後ろに立ち、威圧するようにPCの画面を覗き込んでいる。
「すみません、すぐにやります……」
わざと気弱な声を出しながら、私は椅子からゆっくりと立ち上がった。その瞬間、着慣れたはずのタイトなOL衣装がわずかに擦れる音が、誰もいない空間に妙に鮮明に響く。いつもなら怯えて席を外すはずの私が、あえて一歩も引かずに、彼の至近距離で静止した。
混ざり合う、彼の苦いコーヒーの香りと、私の首筋から漂う甘い香水の残り香。そのじれったい距離感に、彼の説教がぴたりと止まった。
逆転する視線の熱
「……おい、聞いてるのか?」
彼の声が一瞬、微かに震えた。私の視線は、その小さな動揺を見逃さない。昼間のパワハラじみた厳しい口調はどこへやら、彼は私のあまりに堂々とした距離感に、言葉を失っているようだった。私は逃がさないように、彼のデスクに両手を突き、彼を椅子の背もたれへと静かに追い詰める。
「聞いてますよ、課長。でも、そんなに怖い顔をされたら、手が止まってしまいます」
吐息が触れ合うほどの距離で、私はわざとゆっくりと視線を合わせた。タイトなOL衣装が描くシルエットが、逃げ場のない緊張感となって彼の視界を支配する。布地越しに伝わる微かな体温が、彼の理性をじわじわと侵食していくのが分かった。彼の手が、デスクの端をきつく握り締める。私を見上げる彼の瞳に、困惑と、抗えない熱が混ざり合っていく。
夜を支配する溜息
「ねえ、本当に仕事の話、続けたいんですか?」
耳元で囁いた言葉に、彼の喉が大きく上下した。衣服が触れ合うか触れ合わないかの瀬戸際で、空気が火花を散らす。昼間の優位な立場なんて、この密室の熱気の前では砂の城のように脆い。私の不敵な笑みに翻弄され、ただ息を呑んで立ち尽くしている彼の姿が、たまらなく刺激的だった。
彼の荒い呼吸が私の肌をなで、室内の温度がさらに跳ね上がった。このまま、積み重ねてきた言葉の鋭さで、彼のプライドをすべて解きほぐしてしまいたい。お互いの存在に強烈に惹きつけられ、もう一歩先へと踏み出しそうになる境界線。私は彼を支配するようにさらに深く距離を詰め、夜の闇に二人きりの秘密を刻んでいった。


