鳴り響く秒針の隙間で
アラサーと呼ばれる年齢が近づき、最近どうにも疲れが取れなくなってきた。仕事の忙しさを言い訳に、自分の身体を後回しにしてきたツケを払うように、私は重い腰を上げて健康診断のクリニックへ向かった。
「奥の診察室へどうぞ」
看護師の事務的な声に導かれ、スライド式のドアを開ける。白衣を着た男性医師は、カルテを見つめたまま、低く落ち着いた声で「失礼します」と言った。
診察室の空気はひんやりとしていて、微かに消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。
「最近、下腹部に違和感や、冷えを感じることはありませんか?」
「えっと、たまに、デスクワークの後に重くなるような感じが……」
彼のまっすぐな視線が私を捉え、言葉が詰まる。ただの問診のはずなのに、部屋を支配する静寂のせいで、自分の心臓の音がやけに大きく響いていた。
触れ合う体温のグラデーション
「少し詳しく、内診でチェックしてみましょう。準備をしてくださいね」
促されてパーテーションの奥へ進み、下着を外して診察台へと上がる。自動で動き出した台がゆっくりと傾き、私の身体を無防備な姿勢へと固定していく。
カーテン一枚を隔てた向こう側で、カサリ、と医療用手袋をはめる乾いた音がした。その無機質な響きが、かえって私の想像力を掻き立てて、肌を粟立たせる。
「力を抜いて、楽にしてください」
カーテンの隙間から彼の長い指先が滑り込んできて、まずは太ももの内側に触れた。手袋越しのはずなのに、彼の指先が持つ確かな熱が、冷え切った私の肌へとじんわりと伝わってくる。
「……っ」
思わず息を呑む。彼の手がゆっくりと、確実に、私の最も繊細な境界線へと近づいてくるのが分かった。診察室の蛍光灯の光が、遮られた視界の隅で白く滲んでいる。暴かれる内側の輪郭
「では、器具を入れますね。少し冷たいですよ」
金属製のクスコが触れた瞬間、硬質で容赦のない冷たさに身体がビクンと跳ねた。けれど、次の瞬間には、私の内側を押し広げるように進む彼の指先の、圧倒的な熱量に意識が塗り替えられていく。
「あ、あの……」
「大丈夫ですよ、ゆっくり呼吸をして。ここ、少し痛みますか?」
彼が触れる特定のポイントに、甘い痺れのような感覚が走り、頭の芯が痺れていく。直接的な視線は交わせないのに、彼が私のすべてを指先ひとつで把握しているという事実に、目眩がしそうだった。
衣服が擦れる微かな音、私の浅い吐息、そして彼の静かな衣服の気配だけが、狭い空間で混ざり合う。
「異常はありません。でも……すごく敏感ですね」
耳元で囁かれたその声は、医師としての冷静さを欠き、一人の男としての熱を帯びているように聞こえた。その瞬間、お互いの理性が融け落ちていくような強烈な引力に捉えられ、私はこれ以上ないほどに彼の存在を強く求めていた。


