レンズの向こうの青い火花
「ねえ、本当にこれで生活費、稼げるのかな」
私は手垢のついたスマートフォンのカメラスタンドをいじりながら、狭いワンルームの床に視線を落とした。
大学の講義を終え、コンビニの廃棄弁当の匂いがかすかに残る私の部屋にやってきたのは、同じサークルの親友である彼女だ。家賃の支払いに追われ、お互いにすっかり行き詰まっていた私たちは、冗談半分、本気半分でカメラのスイッチを入れようとしていた。
「大丈夫だって。アタシたちの秘密、ちょっとだけ画面の向こうに分けてあげるだけだし」
彼女はそう言って、少し古びたパーカーのジッパーをゆっくりと引き下げた。ナイロンが擦れるカサリとした音が、やけに静まり返った部屋に響く。ただの配信のはずなのに、私の心臓は今までになく強く跳ねていた。レンズの黒い瞳が、私たちのぎこちない距離感をじっと見つめている。
ファインダーに触れる体温
時間が経つにつれて、部屋の空気は目に見えて熱を帯びていった。
私たちは液晶画面 of の枠内に収まるように、自然と肩を寄せ合う。
「……なんか、いつもより近くない?」
私が呟くと、彼女は言葉を返す代わりに, じっと私の唇を見つめてきた。その視線の熱さに、私の肌は粟立つ。二人の間に流れる空気が、まるで真夏の夜のように濃密に、重く変化していくのが分かった。
彼女の手がゆっくりと伸びて、私の頬に触れる。その指先から伝わる圧倒的な熱が、友達という便利で安全だった境界線をじわじわと溶かしていく。彼女が小さく息を吐き出すたび、その熱い吐息が私の首筋にかかり、頭の芯が痺れるような感覚に襲われた。画面の中の私たちは、まるでお互いしか見えていないかのように、強く惹かれ合っていた。境界線が溶けるノイズ
もう、レンズの向こうの視聴者のことなんて、どうでもよくなっていた。
この狭い部屋は、いまや私たちだけの剥き出しの感情を閉じ込めるための檻だ。
「ねえ、これ、演技じゃないよ」
彼女の低い声が耳元で響いた瞬間、私の背中に彼女の手が回り、薄いTシャツ越しにその手のひらの熱が直接伝ってきた。絶対に踏み越えてはいけない、親友という名の一線。けれど、お互いの服が擦れ合う音が部屋の壁に反響するたび、私の理性は粉々に砕け散っていく。
お互いの鼓動が重なり合い、部屋のすべてが反転していくような狂おしい錯覚の中で、私は彼女の肩をきつく抱きしめた。カメラが切り取る私たちのシルエットは、もう誰にも止められないほど深く、濃密に重なり合おうとしていた。


