カウンターに置かれたガラスのグラスが、都会の夜の街灯を反射して鈍く光っている。
不意に訪れた空白
「本当に、全部飲み干しちゃうんだね」
少し驚いたような彼の声が、静かな部屋の空気に溶けていく。私は手元の空になったグラスを見つめたまま、小さく微笑んだ。ただの週末の宅飲み。それなのに、お互いが選ぶ言葉の端々に、いつもとは違う熱が混ざり始めていることに気づいていた。
お互いに20代の半ばを過ぎ、仕事の愚痴を言い合うだけの関係だったはずなのに。彼がソファで少しだけ体勢を崩し、私との距離が縮まる。衣服が擦れるわずかな音が、やけに耳に優しく、そして刺激的に響いた。
喉を潤す熱
「だって、残すのはもったいないでしょ」
私は冗談めかして言ったけれど、自分の声がいつもより少しだけ低くなっていることに気づく。部屋の温度は適温のはずなのに、首筋のあたりがじわじわと熱い。
彼は何も言わず、ただ私の目を見つめていた。その視線の長さが、二人の間の空気を重く、そして濃密に変えていく。彼の手が、テーブルの上の私のグラスに触れた。指先がほんの少しだけ私の肌をかすめ、その瞬間に静かな緊張感が部屋中を支配する。
彼の吐息が、すぐ近くで熱を持って揺れているのが分かった。
満たされる感覚
「ねえ、もう一杯だけ、付き合ってよ」
彼の低い声が、今度は私の胸の奥に直接響くようだった。部屋の明かりを落としたわけではないのに、彼以外の景色がすべてぼやけて見える。
これまでの境界線が、音を立てずに崩れていく。お互いの存在に強烈に惹きつけられ、この心地よい渇きを完全に満たしてしまいたいという衝動が、私たちの行動を少しずつ変えようとしていた。彼はゆっくりと、でも確かな意志を持って、私の方へと体を傾けてきた。


