揺れる琥珀の秒針
ワンルームの部屋は、二人分の体温だけで驚くほど簡単に暖まってしまう。
私は、彼が差し出してきた小さなショットグラスを睨みつけた。
「本当にやるの? 百発、全部一気に飲み干すなんて無理だよ」
「ルールだから。負けた方が、相手の言うことを何でも聞く。ほら、ごっくんして」
彼は悪戯っぽく笑って、自分の分のグラスを煽った。
喉がコトリと鳴る。その音がやけに生々しくて、私は慌てて視線をグラスに落とした。
部屋の隅に置かれた加湿器が、低く静かに蒸気を吐き出している。
この狭い空間の中、私たちはソファの左右に分かれて座り、小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。
まだ、お互いの膝が触れ合わない程度の、じれったい距離。
私は意を決して、冷たい炭酸を喉に流し込んだ。
喉の奥がピリピリと痺れ、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「一枚、めくるよ」
彼がトランプの束に手を伸ばす。カードが擦れる乾いた音が、静かな部屋に響いた。
加速する呼気と密室
気づけば、空になった小さなグラスがテーブルの上にいくつも並んでいた。
何回目かも忘れるくらい、ゲームを繰り返している。
「私の負け、かな」
私がそう呟くと、彼はグラスを差し出す手を止めない。
「まだ途中。ほら、全部飲み干して」
彼の指先が、グラスを渡すときに私の指に小さく触れた。
触れた場所から、じわじわと熱が広がっていくような錯覚に陥る。
部屋の空気は、いつの間にか濃密な湿気を帯びていた。
エアコンの風が、私たちの前髪を微かに揺らす。
彼はじっと私の目を見つめていた。その視線からは、もう最初の冗談めかした軽さは消えている。
グラスを持つ私の手が微かに震えた。
喉を鳴らして飲み干すたびに、自分の輪郭が曖昧になっていく。
「ねえ、ちょっと暑くない?」
私が首元を少し緩めると、彼の視線が私の手元で一瞬だけ止まった。
部屋を包む沈黙が、お互いの鼓動の音を大きくしていく。最後のひと滴が落ちる場所
テーブルの上のグラスは、もう数え切れないほど積み重なっていた。
「これで、最後」
彼がそう言って、最後のグラスを私の前に置いた。
私は彼の目から視線を外せないまま、その冷たい液体を喉の奥へと滑り込ませた。
ごっくん、と音が部屋に響く。
すべての条件が満たされた瞬間、部屋の中の緊張感が最高潮に達した。
「全部、飲み干したね」
彼の声が、いつもより少し低く、耳の奥に響く。
彼は空のグラスを置くと、ゆっくりと上半身をこちらへ傾けた。
私たちの影が、壁に並んで映し出されている。
部屋は完全に二人の熱だけで満たされ、外の世界の音は何も聞こえない。
彼の視線が、私のすぐ近くで揺れていた。
次に彼がどんな言葉を口にするのか、その手がどこに動くのか。
私はただ、高鳴る胸を押さえながら、その瞬間を待っていた。


