吐息の温度が混ざる場所
施術ベッドを照らす間接照明が、部屋の隅にある白い壁に長い影を落としている。
「いつもより、少し肩が張ってますね」
私は、25歳だという彼の背中にそっとオイルを馴染ませながら、低く声をかけた。
定期的に私のサロンを訪れる彼は、いつもは軽快な冗談を言うのに、今日はどこか上の空で、張り詰めた空気をまとっている。
「…そうかもしれない。最近、いろいろあってさ」
彼が息を吐き出すたび、かすかに漂うハーブのアロマと、彼の体温が混ざり合った匂いが空間に広がる。
彼がゆっくりと仰向けに体勢を変えるとき、シーツと衣服が擦れ合うササ、という微かな音が静寂に鮮明に響いた。
ふと彼が顔を巡らせ、私の指先をじっと見つめてくる。
その視線の熱さに、私たちの間にある四角い部屋の空気が、じれったいほどの緊張感を帯びていくのがわかった。
境界線を溶かす熱度
施術の手が彼の首筋から鎖骨へと滑るにつれ、言葉が途切れた「間」がどんどん濃密になっていく。
「ねえ、いつもこんなに丁寧にやってくれるの?」
彼の声がいつもより少し低く、私の耳の奥を優しくくすぐる。
顔を上げると、至近距離で彼が私のことを見つめていた。
見つめ合う時間の長さが、お互いの心臓の鼓動を容赦なく跳ね上げていく。
部屋の隅に置かれた加湿器から上がる白い蒸気が、暖色の光の中でゆらゆらと境界線をなくしていく。
その逃げ場のない閉ざされた空間の状態が、今の私たちの剥き出しの欲求と完全にシンクロしていた。
「…特別な人にしか、こんなことしません」
強がってみせた私の唇から漏れた吐息は驚くほど熱く、彼の顔の空気をかすめた。
彼が小さく息を呑む音が聞こえ、部屋の温度がさらに一段階上がったのがわかった。理性が崩壊する一瞬
もう、お互いにこの視線が持つ本当の意味を誤魔化すことはできなかった。
彼は私の手首をそっと掴み、拒絶を許さないほどの強い瞳で私を完全に捕らえた。
至近距離で交わる呼吸が、これまでに経験したことのないほど濃密な空気を生み出していく。
「もう、施術者とお客さんってだけの関係じゃいられないよ」
彼の絞り出すような囁きが耳元に届いた瞬間、全身に痺れるような甘い衝撃が走った。
私の指先は、無意識にベッドのシーツをきつく握りしめていた。
この閉ざされた部屋の中で、周囲の雑音は完全に消え去り、私たちの速い呼吸と、ドクドクと重なり合う心音だけが世界を支配している。
お互いの存在に強烈に惹きつけられ、これまでの境界線を完全に越えてしまいそうになる絶対的な一瞬。
私はただ、熱く潤んだ彼の瞳を見つめ返し、その先にある確実な変化をじっと待っていた。


