プライドの綻び
「ちょっと、どこ連れてく気?」
ヒールの高いサンダルで歌舞伎町の汚れたアスファルトを鳴らしながら、私はわざと冷たい声を向けた。
ブランド物のバッグを胸に抱え込み、彼から少し距離を置く。
今日の私は、誰もが振り返る完璧な女子大生。
安い言葉で動く女じゃない。
そう自分に言い聞かせているのに、隣を歩く彼の、どこか余裕のある横顔から目が離せなかった。
「そんなに警戒すんなって。ちょっと静かな場所で話そうよ」
ストリートで突然腕を掴まれた時は、鼻で笑ってあしらうつもりだった。
それなのに、彼の低くて耳に心地いい声と、強引なのに不快じゃない視線に、私の完璧なはずの防壁がじわじわと削られていく。
ふと見上げた先、ネオンの光に浮かぶ高級ホテルのエントランスが目に飛び込んできた。
都会の喧騒から隔離されたその空間は、まるで私たちの理性を吸い込む巨大な装置のようだった。
「ねえ、まさかそこに入るつもり?」
私の声が、少しだけ震えた。
甘い降伏
自動ドアが閉まった瞬間、外の生ぬるい夜風が消え、冷たい静寂が私たちを包み込んだ。
エレベーターの狭い密室の中で、彼との距離が急激に縮まる。
私の香水の甘い香りと、彼のシトラスのコロンが混ざり合い、息が苦しくなる。
「さっきまであんなに偉そうだったのに、急に静かじゃん」
耳元で囁かれ、首筋に熱い吐息が触れた。
ゾクッとした感覚が背中を駆け抜ける。
部屋に入り、カードキーがスロットに収まるカチリという音が、私のプライドが崩壊する合図だった。
窓の外には、東京の夜景が残酷なほど綺麗に広がっている。
彼はジャケットを脱ぎ捨てると、私の前に立ちはだかった。
逃げ場のない視線が、私の瞳の奥をじっと見つめてくる。
「本当は、こういうことされたかったんでしょ?」
「バカにしないで……っ」
言い返そうとした唇が、彼の長い指で優しく、だけど拒絶を許さない強さで塞がれた。崩壊の夜
プライドの象徴だったブランドのバッグが、床に音を立てて落ちる。
彼の大きな手が私の腰に回り、強引に引き寄せられた。
薄いトップスの布地越しに、彼の圧倒的な体温がダイレクトに肌に伝わってくる。
「ん……っ」
抵抗する言葉は、重なる吐息の中に溶けて消えた。
いつの間にか、私の高飛車な態度はどこかへ吹き飛んでいた。
ただ彼に触れられている場所が、火がついたように熱い。
ホテルの大きなベッドに押し倒され、見上げる彼の瞳には、完全に私を支配したという愉悦の色が浮かんでいた。
髪がシーツに散らばり、衣服が擦れ合うかすかな音が、静かな部屋にやけに大きく響く。
「もっと可愛い声、聞かせてよ」
耳たぶを優しく噛まれ、私はたまらずシーツを強く握りしめた。
頭の芯がとろけていくような快感の中で、私はただ、この危険な男にすべてを無茶苦茶にされる快楽に、深く溺れていくのを感じていた。


