稲穂の波と、白シャツの嘘
「相変わらず、東京でもそんな格好してんの?」
陽に灼けた畳の匂いが満ちる祖父母の家で、私は彼――幼馴染の健二の視線を受け止めていた。
帰省中の田舎、エアコンの効きが悪い居間で、私の白いサマーニットは汗ばんだ肌に張り付いている。
自分でも自覚している。昔から、私の身体のラインは、この静かな町ではどこか不似合いに映ってしまうことを。
「してないよ。っていうか、健二こそ背伸びた?」
ごまかすように笑うと、彼の手が私のすぐ横の畳につかれた。
幼い頃は同じ目線だったはずの彼から、今は男の子特有の、少し苦いような、熱い体温の気配がする。
「東京の大学、楽しい?」
顔が近い。彼が瞬きをするたび、長い睫毛が揺れるのが見えた。
私たちはただの幼馴染。それなのに、居間の扇風機が首を振るたび、ぬるい風が二人の間の空気をじれったくかき混ぜていた。
ひび割れた結界
会話が途切れ、蝉の声だけが部屋を支配する。
健二の視線が私の手元に落ち、気まずそうに逸らされた。
その耳たぶが、夕暮れの陽射しよりも赤く染まっているのを見逃さなかった。
「……なんか、ここ、狭いな」
彼が呟き、少しだけ私の方へ膝をにじませる。
衣服が擦れる、カサリ、という小さな音が、妙に鼓膜に響いた。
どこか遠くにある、誰も知らないホテルの一室に迷い込んだような、そんな非日常的な静寂が胸を過る。
私の指先が、緊張で小さく震えた。健二がそれに気づいたように、少し躊躇ってから、そっと自分の手を近づける。
「っ、健二……」
「お前さ、自分が今、どんな顔してるか分かってんの」
彼の声が一段低くなり、互いの体温が混じり合う距離で、じわじわと熱が伝染していく。
喉の奥が渇き、呼吸がいつもより浅くなるのを止められなかった。境界線を越える吐息
触れ合うか触れ合わないかの距離から、彼のまっすぐな想いが伝わってくる。
もう、ただの幼馴染という言葉の裏に隠れることはできない。
健二の指先が、私の髪に触れ、そのまま耳の後ろをかすめるように動いた。
その仕草があまりにも優しくて、切なくて、頭の芯が痺れた。
「……帰したくない、って言ったら、困る?」
彼の瞳が、私の心の奥底を覗き込むように、真っ直ぐに私を射抜いていた。
もう、東京での生活も、ただの友達という境界線も、溶けてなくなりそうだった。
見つめ合う時間の長さだけ、二人の距離が、決定的に、そして甘美に揺らいでいく。
彼の顔がさらに近づき、熱い吐息が私の頬をなでた。
次にこの沈黙を破るのはどちらなのか、その答えはもう、言葉にするまでもないほど明白だった。


