迷路の入り口でためらう指
「……待って、まだシャワーも浴びてないよ」
ホテルの大きなベッドの端に腰掛けたまま、私は小さく声を絞り出した。
自分で言うのも変だけれど、周りからはいつも綺麗に整った顔立ちだと褒められる。でも、今の私はそんな外見とは裏腹に、ただの不器用で、こんな状況に慣れていない一人の素人に過ぎない。
「いいじゃん、そんなの気にしなくて。このまま始めよう」
彼の強引な言葉とともに、私の華奢な肩に熱い手が置かれる。
一日中歩き回って、夏の日差しを吸い込んだ私の肌。完璧じゃない、少し汗ばんだ自分の匂いが彼に伝わってしまうかもしれないという羞恥心で、胸が締め付けられるように痛んだ。
すっと伸びた彼の指先が、私のブラウスのボタンを上から順に外していく。
布地が滑り落ちるかすかな音だけが、遮音性の高いホテルの静寂に、ひどく鮮明に響き渡っていた。
混ざり合う体温とためらいの香
「本当に、このままでいいの……?」
見上げる私の瞳に、彼は答える代わりに顔を近づけ、じっと視線を合わせてきた。
言葉が途切れた二人の間に、密度の高い、逃げ場のない空気がゆらゆらと立ち上る。
数秒、あるいは数分にも思える長い間のあと、彼の唇が私の首筋へと降りてきた。
シャワーを浴びていない気まずさから思わず身を硬くしたけれど、彼の熱い吐息が皮膚に触れた瞬間、頭の芯がじんわりと痺れ始める。
彼が私を強く抱き寄せるたび、お互いのリアルな肌の熱、そして今日という時間を一緒に過ごしてきた証のような、生々しい夏の残香が混ざり合っていく。
恥ずかしさと、それを上回る圧倒的な身体の熱が、私の体輪郭をじわじわと侵食していくのが分かった。境界線が解ける密室
ホテルの部屋特有の、どこか現実から切り離されたような濃密な空間。
「ダメ」と言いたかったはずの私の指先は、いつの間にか彼のシャツの背中を強く掴んでいた。
綺麗に取り繕った自分を引き剥がされ、剥き出しの感情のままに彼を求めている。そんな自分の内面の変化に、激しい目眩のような興奮を覚える。
彼の大きな手が私の腰を包み込み、ベッドのシーツへと私を深く沈めていく。
視線が絡み合い、もう言葉での言い訳は一切通用しない。
「恥ずかしがってる顔、すごく綺麗だよ」
耳元で囁かれた低音の熱に、完全に理性のタガが外れた。
お互いの存在に強烈に惹きつけられ、恥じらいも躊躇いもすべてが二人の熱に焼き尽くされていく。この先の、もっと深い繋がりへと引きずり込まれる予感に身を震わせながら、私は彼の手をさらに強く握り返した。


