静寂を切り裂く視線
「ちょっと……急にどうしたの?」
ホテルの重いドアが閉まった瞬間、私は小さく声を上げた。
いつもは「マスコットみたい」とか「あどけないね」なんて言われる私だけど、今の彼の瞳に映っているのは、そんな子供じみた私じゃない。
彼は私のすぐ側で足を止め、逃げ場を塞ぐように壁に手を突いた。
外の熱気をまとったままの彼の体温が、数センチの距離を越えて私の肌をじりじりと焼く。
「待てないんだ。君がそんな顔で見せるから」
耳元を掠める低い声に、心臓の鼓動が耳の奥まで響いてくる。
戸惑いと、それ以上に内側から湧き上がる未知の緊張感で、喉の奥が熱くなった。
混ざり合う熱帯夜
彼が私の肩に手を置くと、上質なシャツの生地が擦れる微かな音が、静まり返った部屋に驚くほど鮮明に響いた。
エアコンが効き始める前のホテルの室内は、外の喧騒を遮断した濃密な沈黙に支配されている。
シャワーの湿り気もない、渇いた夏の匂いがお互いの間で混ざり合い、感覚を研ぎ澄ませていく。
「本当に、このまま……?」
私が視線で問いかけると、彼は私の瞳の奥を射抜くように数秒間じっと見つめ返した。
言葉にできない「間」が、二人の間の空気を爆発しそうなほどに引き絞る。
次の瞬間、彼の指先が私の髪を優しく、けれど強く掬い上げ、私は思わず息を呑んだ。理性を溶かす距離
ホテルの柔らかなシーツに背中が触れた瞬間、視界が白く反転した。
幼いと揶揄される私の表情は、今、彼が向ける熱情によって、自分でも驚くほど艶やかな色へと塗り替えられていく。
彼の手が頬をなぞるたび、全身の皮膚が微細な震えを帯び、熱い電流のような感覚が背中を駆け抜ける。
日常のすべてを置き去りにしたこの空間で、彼に引き寄せられる引力に抗う術を、私はもう持っていない。
「もう、離さないよ」
重なりそうなほど近い距離で囁かれる吐息。
お互いの存在に狂おしいほどに惹かれ合い、世界が二人だけになったような錯覚に陥る。
このまま彼の温度にすべてを預けてしまいたい——そう強く願いながら、私は震える指先を彼の胸元へと伸ばした。


