液晶の光と、遠い階段の音
金曜の夜。どこまでも同じ形の四角が並ぶ団地は、いつも通り無機質な静けさに包まれている。換気扇の隙間から、どこかの部屋の晩ご飯の匂いが微かに漂うリビング。今風の派手めなメイクを残したまま、私は自分の部屋のベッドに寝転んで、スマートフォンのインカメラを自分に向けていた。画面に映る私は、いつもの強気なギャル風の顔とはどこか違って、少しだけ真剣な瞳をしている。別に誰に見せるわけでもない、自分だけの自由な時間。画面に向かってそっとポーズを決め、セルフタイマーのボタンを押す。静まり返った部屋に響く短い電子音が、私の小さなこだわりを静かに肯定してくれるような気がした。
映し出される視線と、解けていく輪郭
お気に入りのゆるいスウェットの生地が、寝返りを打つたびに肌と擦れて柔らかな衣擦れの音を立てる。画面に保存されていく自分の写真を見つめる時間は、まるでレンズの向こうのもう一人の自分とじっと対話しているような、濃厚な間の連続だった。窓の外から聞こえる遠い誰かの足音が、階段を上るたびに小さく響き、それが静寂を際立たせていく。外の空気は冷たいはずなのに、スマートフォンの画面をスクロールするたびに、自分を表現することへの熱意が私の心をじわじわと満たしていく。この無機質なコンクリートに囲まれた空間の中で、他人の目から解放された私だけの感性が、内面の自由と重なり合っていく。
ファインダーの向こうへ溶ける夜
気がつけば窓의向こうの景色は完全に闇に溶け、部屋を満たしているのはスマートフォンの青白い光だけだった。普段、外の街で見せている完璧な自分のキャラクターも、世間の窮屈なルールも、この液晶の四角いフレームの向こう側ではすべてがリセットされる。もっと自由な、自分さえも知らなかった新しい表現をこのレンズに焼き付けたい。その強烈な衝動に突き動かされるように、私はもう一度カメラのシャッターを切った。レンズの奥にあるファインダーを真っ直ぐに見つめ、これまでの限界を超えた自分らしさへと行動を変容させていくその刹那、日常のすべてを置き去りにするような圧倒的な高揚感のなかで、私はその瞬間にそっと身を委ねた。


