張り詰めたレンズ
「じゃあ、そこに座って。いつも通りの感じでいいから」
カメラのファインダーを覗いたまま、ファストファッションのシャツをラフに着こなした彼が指示を出す。私はスタジオ代わりに借りた小さなワンルームの、白いベッドの端に腰掛けた。モデルとカメラマンという、どこかビジネスライクで、けれど二人きりという絶妙な「間」が、部屋の空気をじわじわと支配していく。
レンズの丸いガラスが、部屋の淡い照明を反射して怪しく光っている。彼がシャッターを切るたび、カシャ、という乾いた機械音が、静かな空間にやけに響いた。
「少し緊張してる? 肩の力、抜いて」
彼がカメラから顔を上げ、まっすぐに私を見つめた。その視線の強さに、自分の胸の奥がチクリと跳ねる。
熱を帯びるファインダー
「……そんなに見つめられたら、誰だって緊張するよ」
私は冗談めかして笑ってみせたけれど、カメラの向こう側にある彼の真剣な眼差しから目が離せなくなっていた。彼はカメラをサイドテーブルに置くと、ゆっくりとベッドのほうへ歩み寄ってきた。衣服が擦れるわずかな音が、耳元でやけに生々しく聞こえる。
彼が私の隣に腰掛けた瞬間、彼がいつもまとっているシトラス系の軽い香水の匂いと、男の人特有の強い肌の熱が一気に押し寄せてきた。
「じゃあ、カメラなしなら、緊張しない?」
彼の低い声が耳元をかすめ、吐息の熱さが首筋に触れる。見つめ合う時間の長さが、お互いの体温をさらに上昇させていくのが分かった。
ファインダー越しの衝動
部屋のカーテンは完全に閉め切られ、外の世界の雑音は一切届かない。この狭い四角い部屋という空間だけが、私たちの世界のすべてになっていた。
彼は躊躇うことなく手を伸ばし、私の指先にそっと触れた。驚くほど熱いその感触に、頭の芯がじんわりと痺れていく。レンズの焦点を合わせるように、二人の距離が決定的に縮まっていく。
「本当は、ファインダー越しじゃなくて、ちゃんと君を見たかった」
彼の濡れた瞳が、私の唇へとゆっくりと下がっていく。お互いの存在に強烈に惹きつけられ、これまでの関係という境界線を踏み越えてしまいたいという衝動が、身体の芯から湧き上がってくる。引き寄せられるように顔が近づき、爆発寸前の緊張感が私たちのすべてを支配していた。


