落ちる水滴と、砂の残像
西日が傾き、砂浜が紫色の影に染まり始める頃。私は、潮風が吹き抜ける海の家の奥にある、狭いシャワー室の中にいた。コンクリートの床に跳ねる冷たい水が、日差しで赤く火照った肌を冷ましていく。髪についた砂を洗い流そうと目を閉じると、頭を過るのは、昼間にビーチバレーのネット際で一瞬だけ視線が交差した、あの青年の姿だった。陽に焼けた素肌と、しなやかに躍動していた彼の残像が鮮明に蘇る。ただの一瞥だったはずなのに、胸の奥が不規則に脈打ち、夏の日の戸惑いが冷たい水の中で静かに広がっていった。
立ち上る湯気と、記憶の温度
シャワーの温度を少し上げると、狭い室内に白い湯気が立ち込め、瞬く間に空間が満たされていく。水滴が床を叩く音がタイルの壁に反響して、やけに大きく響いた。彼の、あの吸い込まれそうに真っ直ぐだった瞳。言葉を交わしたわけでもないのに、あの瞬間に二人の間に流れた空気の揺らぎが、時間を経た今になって胸をじわじわと熱くさせていく。海の家のトタン屋根を揺らす風の音が遠くで聞こえるたび、楽しかった昼の情景と静かな夜の境界線が曖昧になり、深い吐息がこぼれた。
水音のなかで変容する夜
シャワーから溢れる激しい水音が、周囲の雑音をすべてかき消していく。もう彼と会うことはないかもしれないという切なさと、夏の終わりに特有の寂しさが、胸の奥の情熱をさらに強く刺激する。この密閉された世界の中では、ただ自らの内側から溢れ出す純粋な憧れに素直になることができた。全身を駆け巡る高揚感が、これまでの日常を塗り替えていく。この熱が冷める前に、旅の記憶をしっかりと心に刻みつけたいと願いながら、私は溢れる水の中でそっと前を見つめた。


