見上げるレンズの奥
高い天井から吊り下げられた無機質な照明が、まだ準備中のスタジオに冷たい影を落としていた。ここが、私の初めての撮影が行われる予定の部屋。170センチを超える私の身長は、どこに行っても目立ちすぎる。その上、ルーズなシルエットの服を着ていても隠しきれない胸のボリュームが、余計に周囲の視線を集めてしまう。
「そんなに縮こまらなくていいよ。その圧倒的なスタイルが、今日の最大の武器なんだから」
カメラのレンズを覗き込みながら、ディレクターのเขาフランクに、でも真剣な声でそう言った。彼の視線が私の全身をゆっくりと捉えるたび、衣装のナイロンが擦れる乾いた音が部屋の静寂に響く。彼との距離はまだ三メートル。それなのに、向けられたレンズの奥にある熱量だけで、肌の表面がわずかに粟立つような不思議な緊張感があった。
縮まるファインダー
「ちょっと, 立ち位置の調整いい?」
彼がカメラから顔を上げ、長い歩幅でこちらへと近づいてきた。彼が隣に立った瞬間、部屋のエアコンが吐き出す冷気とは明らかに違う、彼自身の体温の熱が私の横顔をかすめる。ほんのりと香る、スモーキーな煙草とミントの匂い。
「やっぱり、実物は画面で見るよりずっと迫力があるな。ちょっと圧倒されそう」
彼はそう言って悪戯っぽく微笑み、私の目をまっすぐに見つめた。視線が絡み合う。一秒がひどく長く感じられるその「間」のなかで、二人の間の空気がじわじわと濃密に変化していくのが分かった。言葉を失った私の唇から、小さく熱い吐息が零れ落ちる。私の恵まれた身体が、彼のプロフェッショナルな視線に暴かれ、肯定されていくような、心地よい気恥ずかしさが胸の奥からせり上がってきた。覚醒する支配権
この四角い部屋は、すでに外の世界のルールが届かない、私たちだけの濃密な劇場へと変貌を遂げていた。
彼の指示に従ってポーズを変えるたび、私の中に眠っていた「見せつける」という本能的なポテンシャルが激しく目覚めていく。大柄な私の身体が、彼の張り詰めた視線とシンクロするように熱を帯び、部屋全体の空気を支配していくような錯覚さえ覚えた。
「君、自分が思っている以上に、人を狂わせる才能があるよ」
彼の声が低く、掠れたように響く。その瞳の奥にある、表現者としての剥き出しの独占欲。それに触れた瞬間、私の中の何かが完全に決壊した。もっと彼を驚かせたい、この部屋ごと、彼の視線をすべて私のものにしたい。彼の手が私の髪の乱れを直そうと伸びてきた瞬間、お互いの強烈な引力が爆発しそうなほど高まり、私はただ、潤んだ瞳で彼をじっと見つめ返していた。


