すれ違う視線の温度
少し大きめのサイズを選んだ、ビジネスホテルのリラックスウェア。
ゆったりとした生地が、日中のデスクワークで凝り固まった私の身体を優しく包んでいた。
都会の喧騒を見下ろす高層階の一室は、厚いガラス窓によって驚くほど静まり返っている。
まるで世界に私一人だけが取り残されたような、奇妙な孤独感と、それ以上に心地よい解放感。スマートフォンの画面が短く震え、同僚である彼からのメッセージが届く。
『まだ起きてる? 資料の件でちょっと確認したいんだけど、今部屋の前にいるんだ』
まさか彼が同じフロアに泊まっているとは思わず、私は小さく息を呑んだ。
鏡に映る自分の姿は、いつもよりずっと無防備で、少し崩れた襟元からはデコルテのラインが白く浮かび上がっている。
戸惑いながらもドアを開けると、そこには通路の柔らかな光を背負った彼が立っていた。「……こんな時間に、ごめん」
彼の視線が、一瞬だけ私の鎖骨のあたりで止まり、それから慌てて私の瞳へと戻る。
ドアを挟んだわずかな隙間に、言葉にならないじれったい空気が流れ込んだ。
不意に引き寄せられる距離
「部屋、少し片付いてないけど……入る?」
そう問いかける私の声は、自分でも驚くほど少し掠れていた。
彼は無言で頷き、音もなく部屋へと足を踏み入れる。
ドアが閉まった瞬間、このホテル特有の密閉された空間が、二人の距離を急激に縮めたように感じられた。
彼はベッドサイドの小さな椅子に腰掛け、私は少し離れたベッドの端に腰を下ろす。
シーツが擦れるカサリとした音が、静寂の中で妙に大きく響いた。仕事の話をしているはずなのに、お互いの意識は完全に別のところに向いているのが分かる。
彼の視線は、私が小さく身をよじるたびに、リラックスウェアの薄い生地越しに見え隠れする身体の柔らかな曲線や、豊かな胸の膨らみをなぞるように動いていた。
見つめ合う時間が長くなるほど、部屋の温度がじわじわと上がっていくような錯覚に囚われる。
彼の呼吸が少しずつ深くなり、そこから発せられる吐息の熱さが、私の肌に直接届くようだった。理性を浸食する夜の静寂
私は膝を抱え、少しだけ身をくねらせるようにして体制を変えた。
その無防備な仕草に、彼の喉が小さく鳴るのが聞こえた。
お互いの間に流れる空気は、もう完全にビジネスの同僚としてのそれを越えて、濃密に張り詰めている。
窓の外に広がる都会の夜景はどこまでも冷ややかだが、この部屋のベッドの周辺だけは、沸騰しそうなほどの熱量に満ちていた。言葉は途切れ、ただ二人の深い呼吸の音だけが部屋を満たしていく。
彼は立ち上がり、ゆっくりと、だけど迷いのない足取りで私の方へと一歩近づいた。
見てはいけないものを見てしまったかのような、そしてこれから始まる何かに抗えないような、強烈な引力が私たちを支配していく。このまま手を伸ばせば、お互いの存在に完全に溶けてしまう。
そんな危うい衝動が胸を突き上げる瞬間、彼はベッドのすぐ傍で立ち止まり、じっと私を見下ろした。
その瞳の奥にある熱い光に、私はただ吸い込まれるように視線を返し、次の行動を待ち焦がれるように小さく息を漏らした。


