微熱をはらむ午後
「ねえ、本当にこのまま入っちゃうの?」
私はわざと明るい声を出し、手元にあるホテルのカードキーを指先で弄んだ。
いつも通りの元気な私。周りから「悩みがなさそう」と言われるいつもの笑顔。
でも、彼と二人きりでこの部屋に入った瞬間から、喉の奥がカラカラに乾いている。
「いいじゃん。シャワーなんて後で。今はただ、お前とこうしてたい」
彼は私の上着に手をかけ、ゆっくりと引きずり下ろした。
エアコンが効き始めたばかりの部屋。冷たい空気と、彼の指先から伝わる圧倒的な熱が、私の肌の上でちぐはぐに混ざり合う。
「ずるいよ、そういうの」
笑ってごまかそうとしたけれど、私の声は思った以上に小さく震えていた。
重なる呼吸、縮まる距離
ホテルの窓から差し込む西日が、ベッドの白いシーツをオレンジ色に染めていく。
私たちはどちらからともなく、吸い寄せられるようにシーツの上へと倒れ込んだ。
お互いの汗や、今日一日歩き回った街の匂いが、衣服の擦れる音とともに狭い空間に満ちていく。
シャワーを浴びていない気恥ずかしさが、かえって私たちの感覚を鋭敏にさせていた。
「ねえ……」
私が彼の名前を呼ぼうとした瞬間、彼の唇が私の言葉を塞いだ。
触れるだけのキスから、次第に深くなっていく。
彼の吐息が私の頬を掠めるたび、頭の芯がじんわりと痺れていくのが分かった。
じわじわと体温が上がり、自分の鼓動の音が耳の奥でうるさいほどに鳴り響いている。
彼の大きな手が私の腰を包み込み、引き寄せる。
その強引さに、私の体は一瞬で強張った後、すぐに熱となって溶けていった。境界線が溶ける瞬間
ホテルの部屋特有の、どこか現実離れした静寂が私たちを包み込んでいた。
今、この世界には私たち二人しかいないような錯覚に陥る。
見つめ合う視線の長さが、言葉以上の意味を持って、互いの内面を暴いていく。
彼の瞳の奥にある、私を独占したいという強い衝動。
それに呼応するように、私の中の「いつもの元気な女の子」の仮面が完全に剥がれ落ちていく。
「もう、戻れないよ」
どちらが呟いたのかも分からなかった。
彼の指先が私の髪をすくい、首筋へと滑り降りていく。
そのたびに、皮膚の表面が粟立つような、強烈な快感が背中を駆け抜けた。
お互いの存在に激しく惹きつけられ、これまでの関係の境界線が音を立てて崩れていく。
この熱の先にある、もっと深い繋がりを求めて、私は彼の背中にそっと腕を回した。


