無色透明な輪郭
眩しいほどの白一色で満たされたスタジオ。そこに置かれたリネン素材のソファに、私は所在なく腰掛けていた。「圧倒的な透明感」とか「新時代の主役」とか、周囲が騒ぎ立てる言葉はすべて、私の耳の表面を滑り落ちていく。
「緊張で、消えちゃいそうだね」
声をかけてきたのは、今回の撮影の指揮を執る若いプロデューサーの男の人だった。彼の言葉には、私を焦らせるようなトゲが一切ない。
「……消えてないですよ。ちゃんとここにいます」
私が膝を抱えながら少し尖った声で返すと、彼はふわりと微笑み、私のすぐ隣に腰を下ろした。彼が動くたびに、淹れたてのハーブティーのような、すっきりとした爽やかな香りが揺れる。
このまっさらなスタジオを、私は今、外界から完全に隔離された不思議な部屋のように捉えていた。まだ誰の記憶にも染まっていない、真っ白な壁に囲まれた無垢な部屋。男の人の手が、私の頼りない指先にそっと近づいてくる。
浸透していく熱
ふいに、彼の指先が私の手首に優しく触れた。冷房で冷え切っていた私の肌に、彼の持つ確かな体温がじんわりと染み込んでいく。
その瞬間、私たちは言葉を失った。どれほどの間、見つめ合っていただろう。スタジオの機材が発する微かな熱と、二人の間で急速に膨らむ熱気が混ざり合い、部屋の空気が甘く揺らぎ始める。
彼の視線が、私の戸惑う瞳から、少しはだけた首元へとゆっくり滑り落ちていった。布地が擦れるわずかな音が、この密閉された部屋の沈黙をどこまでも濃密に変えていく。
「透明すぎて、触れたら壊してしまいそうだ。でも、もっと君の内側を知りたい」
彼の少し熱を帯びた吐息が私の頬を掠め、心臓の奥が激しく脈打ち始める。
このまっさらな部屋が、彼の視線と私の体温だけでじわじわと満たされていく。私はただ、彼に向き合っているという圧倒的な事実に、頭の芯が心地よく痺れていくのを感じていた。境界線が溶ける夜
男の人の手のひらが、今度は私の頬にそっと添えられた。その指先の優しさに、私のなかの最後の自制心が揺らぎ始める。
この部屋の中で、私は「誰のものでもない自分」を脱ぎ捨て、彼のためだけの存在に変わっていく。新時代という大層な言葉はどうでもいい。ただ、この男の人の瞳に私のすべてを焼き付け、その記憶を独占したかった。
見つめ合う互いの瞳の奥に、言葉にならない強い渇望が灯っている。彼の身体がさらに一歩近づき、お互いの胸元が触れ合うほどの距離に引き寄せられた。
彼の熱い吐息が、私の唇を焦がすように近づいてくる。もう、周囲の雑音は一切届かない。
「……私を、あなたの色に染めて」
私の口から溢れた掠れた囁きが、静かな部屋の空気を完全に支配した。引き寄せられるように、私は彼の胸元へと自分から崩れ落ちそうになっていた。


