仕組まれたゲームの始まり
「本当にやるの? 勝ったら賞金、マジで出すからね」
私はベッドの上に胡坐をかき、目の前に座る弟を挑発するように見つめた。悪ノリで始まった『野球拳』。旅先の夜、少し高めのホテルの一室という非日常な空間が、私たちをいつもより大胆にさせていた。「姉貴こそ、負けても泣くなよ」
彼は不敵に笑いながら、じゃんけんの手を構える。最初はただのいつもの小競り合いのはずだった。けれど、じゃんけんポン、という掛け声とともに、衣服が擦れる衣擦れの音が静かな部屋に響くたび、私たちは少しずつ言葉を失っていった。
私が負け、上着を脱ぐ。布地が一枚消えるごとに、普段は意識もしないお互いの「異性」としての輪郭が、部屋の間接照明に照らされて鮮明になっていく。冷房が効いているはずのホテルの室内が、なぜか少しだけ息苦しく感じられ始めていた。
近づく距離と高まる体温
「……じゃんけん、ポン」
静寂の中に、私たちの声だけが重なる。今度は彼の負けだった。彼がゆっくりとシャツのボタンを外していく動作を、私はなぜか視線を逸らせずにじっと見つめていた。見つめ合う時間が、秒単位で長くなっていく。お互いの呼吸が、かすかに熱を帯びて部屋の空気を震わせる。言葉にできない、じっとりとした空気の揺らぎが二人の間に満ちていく。
「ねえ、なんか部屋、暑くない?」
私がそう言うと、彼はボタンを外す手を止め、まっすぐに私の目を見返してきた。
「姉貴が真剣すぎるからでしょ」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、彼の耳元がかすかに赤くなっているのを私は見逃さなかった。幼い頃から知っているはずの彼の身体が、今はまったく見知らぬ大人の男の肌として、そこにある。衣服が減るたびに、私たちの間を隔てていた「家族」という安全な壁が、じわじわと溶けていくようだった。重なる鼓動と一線の向こう側
ゲームはもう、どちらが勝っているのかさえ分からなくなっていた。残された衣服はあとわずか。ベッドの上の距離は、いつの間にか手を伸ばせば触れられるほどに縮まっていた。
「……次で、最後ね」
私の掠れた声に、彼は何も言わずにただ深く頷いた。お互いの吐息が届く距離。彼の胸元が不規則に上下し、私の心臓もまた、衣服の薄くなった胸の内で激しく警鐘を鳴らしている。
ホテルの大きな窓の外には、どこまでも冷たい夜景が広がっている。けれど、この部屋の、このベッドの上だけは、世界のどこよりも濃密な熱が渦巻いていた。彼の手が、私の肩にそっと触れた。じゃんけんの勝敗とは無関係に動いたその指先から、驚くほどの熱が伝わってくる。触れられた瞬間、脳裏がカッと熱くなり、全身の身体感覚が彼の存在だけに支配されていく。姉と弟という境界線が、その熱い指先によって完全に融解していくのを感じながら、私はただ、お互いを強烈に引き寄せ合う引力の深みへと、あらがうことなく呑み込まれていった。


