眩暈とネオンの兆し
アスファルトから立ち上る強烈な陽炎が、150センチの私の視界をぐにゃりと歪ませていた。「暑いね」と隣で呟き、ハンカチで首筋を拭う彼の仕草を、私は少し離れた位置からじっと見つめる。
露出の多いノースリーブの胸元に、すれ違う見知らぬ男たちの視線が突き刺さる。周囲から「誘っている」と思われがちな私の外見を、彼はからかうこともなく、ただ気遣うように歩調を合わせてくれた。
「どこか、涼しい場所に入ろうか」
彼の言葉が、火照った肌に心地よく染み渡る。視線の先には、都会の喧騒の中に佇む格式高いホテルのエントランス。冷房の効いた空間へと一歩足を踏み入れた瞬間、肌を撫でる冷気と、ほんのりと漂う上品なアロマの香りが、私たちの間のじれったい距離感を包み込んだ。
境界を溶かす熱気
ロビーの奥にあるラウンジのソファに深く腰沈めると、私の体にまとわりつく夏の熱と、ホテルの静寂な空気が混ざり合っていく。
「本当に、倒れなくてよかった」
彼が微かに身を乗り出した瞬間、上質なシャツが擦れる微かな音が耳元をかすめた。彼から漂うわずかな汗の匂いと、冷たいココアの甘い香りが鼻腔をくすぐる。言葉が途切れた一瞬の間、二人の視線が絡み合い、離れなくなる。
彼は手元に置かれたホテルのルームキーに指を触れ、小さく位置を変えた。その硬質なプラスチックがテーブルに触れる「カチリ」という音が、私の胸の奥に眠る熱を呼び覚ます。私のはち切れそうな胸元へと向けられた彼の瞳に、隠しきれない熱情が宿るのを、私は見逃さなかった。
引き合う重力
冷房の風が、かえって私たちの皮膚の熱さを際立たせていく。
「少し、上で休んでいかないか」
彼の低い声が、ホテルの高い天井に吸い込まれるように響いた。その誘いが持つ意味を、私の本能は瞬時に理解する。いつもなら軽薄な笑顔で受け流すはずの私が、今はただ、彼のまっすぐな視線に囚われて動けない。
テーブルを挟んで、彼の手がゆっくりと私の指先に重なった。触れ合った皮膚から、外の酷暑よりも熱い何かが一気に体中へと駆け巡る。窓の外でぎらぎらと輝く夏の太陽が、ホテルの遮光カーテンの隙間から細い光となって、二人の重なる影を濃く浮き上がらせていた。


