不意打ちの残業
金曜日の夜、終電間近のオフィスには私と、少し年下の後輩である彼しか残っていなかった。私はタイトなオフィスカジュアルの裾を整えながら、彼のデスクへと歩み寄る。静まり返った部屋に、私のヒールの音が規則正しく響き、彼の集中を乱していくのを感じていた。
「このデータのチェック、手伝ってくれない?」
少し声を弾ませて隣に立つと、彼は一瞬視線を泳がせ、私の気配を避けるようにパソコンの画面を見つめた。
「あ、はい……すぐやります」
彼の耳たぶが、すでにほんのりと赤くなっている。その分かりやすい動揺に、私の心の中で小さくいたずらな火が灯った。わざと彼の椅子の隣に寄り添い、物理的な距離を詰めてみる。じれったいほどの沈黙のなかで、彼が小さく息を呑む音が静かな部屋に響いた。
甘い包囲網
作業が進むにつれて、室内の温度がじわじわと上がっていくようだった。私の言葉は、次第に仕事の話を逸れ、彼を翻弄するような深みのある言葉へと形を変えていく。からかうたびに、彼は「困ります」と呟きながらも、私の視線から逃れられずにいた。
「ねえ、そんなに緊張して。私のこと、そんなに意識してるの?」
彼の耳元へ顔を寄せ、熱を含んだ吐息を共有するように囁く。私の紡ぐ言葉は、まるで彼の理性を試すような、心地よい緊張感を生み出していた。
「そんな……僕、何も……」
否定する彼の声はかすかに震えていた。デスクの下で、彼の膝が落ち着きなく動いているのが、空気の振動で伝わってくる。私の冗談めいた言葉に一喜一憂する彼の従順な眼差しが、二人の間の空気をさらに濃密にしていった。
支配の夜に溶ける
時計の針が日付変更線を越えた瞬間、オフィスの静寂は私たちの熱い呼吸だけで満たされていた。私はデスクの角に手をかけ、至近距離で彼を見つめる。
「本当は、帰したくないって思ってるんじゃない?」
私の挑発的な言葉が、彼の胸の奥へと届く。その言葉に触れるたび、彼の瞳は熱を帯び、完全に私に心を奪われたような視線を返してきた。
彼の手が、迷いながらもデスクの上で私の指先に近づく。それを拒むことなく、私はさらに彼を惹きつけるような笑みを浮かべた。衣服が擦れ合う微かな音が、私たちの間で火花のように弾ける。お互いの存在に強烈に惹きつけられ、これまでの先輩後輩という関係が溶けていく瞬間に、私は抗いようのない高揚感を覚えていた。
「もう、私のことしか考えられなくなった?」
私がそう問いかけたとき、彼はただ、熱い吐息を漏らしながら、言葉にならない想いを瞳に宿して私を見つめるしかなかった。


